低髄液圧症候群、または別名、脳脊髄液減少症、特発性低髄液圧症候群と呼ばれる病気は、何らかの原因で、脳や脊髄周辺を循環している脳脊髄液が減少し、脳の圧が低下することによって起きる病気です。

症状

典型的な症状は、起立性の頭痛です。すなわち、横になっているときには頭痛が起きないのに、座ったり立ったりする姿勢になると、頭痛が起きるというものです。

原因

この病気の原因は、通常、脊髄のいずれかの部位で、脊髄と脊髄液を包んでいる硬膜に穴があき、ここから脊髄液が漏れ出ることにより、頭蓋内の圧が下がることです。硬膜に穴が開く原因はよく分かっていませんが、椎間板ヘルニアや、後縦靭帯骨化症などで、圧迫された部位の硬膜に穴が開いたり、外側の神経根の部位で穴があいたりするようです。

診断

この病気の診断は、なかなか難しい面がありますが、診断法に、ここ数年、大きな進歩があり、この病気の病態も、徐々に解明されつつあります。

髄液の漏出部位には、いくつかのタイプがあることが分かってきました。

  • Type I: 腹側正中部付近で硬膜に穴があき、硬膜の腹側に脳脊髄液が漏出するタイプ
  • Type II: 外側の神経根付近で硬膜外に脳脊髄液が漏出するタイプ。
  • Type III: 神経根付近で漏出した脳脊髄液が、同部位で静脈と交通し、静脈に還流していくタイプ
  • Type IV: 神経根のやや抹消側で脳脊髄液が漏出するタイプ

診断には、まず、低髄圧症候群かどうか、という診断が必要で、次に、低髄圧症候群が強く疑われる場合には、硬膜に穴があいて髄液が漏れている部位はどこか、という診断が必要です。

頭部MRI

まず、頭部MRIを撮影し、次のような、低髄液圧に特徴的な所見があるかどうかをみます。

  • 矢状断で、横静脈洞の拡張
  • 下垂体の拡大
  • 造影MRIで、髄膜が全体に造影される。
  • 小脳扁桃や脳幹部の下垂や変位

脊髄MRI

これらの所見で、低髄液圧症候群が疑われる場合には、次に、漏出部位を探すことになります。これには、まず、脊髄のMRIを撮影します。

上記のType Iの場合には、脊髄硬膜の腹側に、脳脊髄液が貯留している所見がみられます、この所見は、SLEC (spinal longitudinal extradural CSF collection) と呼ばれます。

上記Type Iの場合には、このSLECの所見がみられる場合が多いのですが、Type IIIの場合は、脊髄MRIでも、診断することが困難です。

Digital Subtraction Myelography

Digital subtraction myelographyという検査法が、近年注目を浴びています。これは、脊髄造影の一種です。脊髄造影検査というのは、腰から細い針を腰椎に刺して、脳脊髄液の存在するスペース(脊髄くも膜下腔)に、造影剤を注入し、この造影剤が脊髄の表面を流れていく際に、レントゲンやCTスキャンを撮影するものです。これが、脊髄造影検査(myelography)と呼ばれるものですが、digital subtraction myelographyというのは、この脊髄造影検査をする際に、コンピューターで画像を処理して骨などの画像を消し、より鮮明な画像で診断する技術のことです。最近、この検査法が、Type IIIなどの、従来診断が困難であった病態の診断に有効であることが報告されています。

治療

Type Iの病態に対しては、ブラッド・パッチという治療法がある程度有効とされています。これは、硬膜外腔に、自分の血液を注入して、血液の凝固に伴って、硬膜の穴が塞がることを期待する、というものです。保険適用されていますが、施行できる施設が限られています。

Type IIIの病態に対しては、ブラッド・パッチは有効ではなく、手術で直接硬膜の穴を塞ぐ必要があります。適切な手術を行えば、手術は非常に有効とされています。

結論

低髄液圧症候群は、まだ病態が充分解明されておらず、診断法も日進月歩の部分がありますが、近い将来に、診断や治療が、より進歩することが期待されています。