頚椎前方除圧固定術は、顕微鏡を用いた繊細な手技です。合併症を避けて、適切な手術を行えば、とても効果があります。脳神経外科医として、是非マスターしたい手技のひとつです。

1.体位

全身麻酔下に、仰臥位となり、頭部は馬蹄上に起きます。このとき、chin-up positionが取られていることが非常に重要です。

普通に馬蹄の上に頭を置いただけではchin-upにならないので、工夫が必要です。現在は、馬蹄の隙間の空いた側に、elastic包帯を巻いて、それで頸部を後ろから支えるようにしています。なおかつ、適度な高さの肩枕と、体の位置をベッドから少し上方にずらすようにして、微調整が必要です。

2.アプローチサイド

教科書的には、左側からのアプローチを勧める場合が多いですが、私の経験上は、右からのアプローチでも問題ありません。右利きの術者にとっては、右からアプローチしたほうが、手術がやりやすくなります。

3.皮膚切開

アプローチサイドに、約5cmの横切開を置きます(3椎間など、多椎間にアプローチする際は、胸鎖乳突筋(SCM)前縁にそった皮切の方がやりやすいでしょう)。皮切の内側端の位置は、正中を越えるか越えない程度です。

皮切の高さの目安は、甲上軟骨上縁が、C5椎体の高さ、輪状軟骨の高さが、C6/7レベルですが、余裕があれば、レントゲンを撮って決めた方がいいでしょう。

4.Dissection

広頚筋を縦に切開します。切開の位置はなるべく内側がいいのですが、内側に少し縫いしろを残しておいたほうが良いでしょう。筋層下方の静脈などを損傷しないように、Kelly鉗子などで、undermineした後に、ハサミで切開します。

次に、SCMを同定します。皮切の位置が高い場合は、SCMはかなり外側に位置しますので注意が必要です。この時のコツは、SCMの筋肉を覆っている薄い筋膜の内側のプレーンで剥離することです。そうすると、SCMの筋層がきれいに見える状態になります。

次に、肩甲舌骨筋(omohyoid muscle)を同定します。omohyoidは、SCMの内側、喉頭の内側を斜め外側下方に走っています。この筋肉も、薄い筋膜の内側に入って、きれいなプレーンを露出します。

Omohyoidの内側縁に沿って、筋膜をハサミで上方に切り上げていきます。人によってはこの部位に、厚い筋膜があり、この部分を切開しないと、充分な術野が得られません。逆に、この部分の筋膜を切開することで、広い術野を得ることができます。

C3/4にアプローチする際は、上甲状腺動脈を、C6/7にアプローチする際には、下甲状腺動脈を、必要に応じてsacrificeします。

5.Exposure

進入方向は、頸動脈の内側で喉頭の外側です。左手の人差し指で、carotid sheathを確認してこれを外側に引き、まず、椎体前面正中の位置を確認します。要領は、まず外側の骨を触り、手前の長頸筋の上を内側にすべらせて、椎体前面正中の硬い骨を触ります。

椎体前面正中の位置が分かったら、次に、助手に筋鉤で喉頭を内側に引いてもらいます。この際も、先ほど指を滑らせたように、筋鉤の先を長頸筋の表面に沿って滑らせます。

椎体前面には、prevertebral fasciaという厚い筋膜があります。この筋膜を、鈍的鋭的に剥離して、椎体全面の骨を露出します。この操作の際に、正中を見失わないよう注意が必要です。常に硬い骨に向かって剥離を進めて下さい。

椎体前面では、出っ張った部分が椎間で、凹んだ部分が椎体です。椎間にSpinal針を刺入し、レントゲンでレベルを確認したら、Spinal針からindigo carmineを注入して、椎間板にマークをつけます。

6.リトラクターの設置

このステップが、手術の成功と合併症予防に重要です。リトラクターの先端部は、長頸筋の下に入れることが望まれますが、実際にはこれが困難な場合が多いでしょう。しかし、少なくとも手前のリトラクターは、長頸筋に引っ掛けないと、術野を保持できません。奥のリトラクターは、長頸筋の下に入れなくても手術はできますが、喉頭の保護のためには、できれば長頸筋の下に入れたほうがいいでしょう。

リトラクターを正確に長頸筋の下に入れるためには、長頸筋をモノポーラーで剥離し、前方に突出した骨棘をソノペットで切除する必要があります。ただ、この部位でのモノポーラーの使用は、周りに重要な組織がありますので、極めて慎重に行って下さい。

多くの場合に、奥のリトラクターを手前のものより少し長いものにかえる必要があります。

7.Discectomy

次に椎間板の切除を行います。15番メスで椎間板に切り込み、鋭匙や西畑鉗子で椎間板を切除します。この際に、軟骨性終板も切除して、骨の面を露出させるようにしたほうが良いとされています。

8.Casparの椎間開大器設置

椎間を開大するために、Casparのdistractorを設置します。まず、上下の椎体に2mmのダイアモンドバーで穴をあけ、poleを二つ立てます。Distractorをpoleに差し込み、椎間を開大します。

あとの操作の邪魔にならないように、穴の位置はなるべく椎間から離すことと、poleの角度は、椎間と平行にし、なおかつ向こう側に少し倒し気味にすることが重要です。

9.骨棘、OPLLの切除

椎間を適度に開大して、椎間のスペースから後方を見ていきます。多くの場合に、それでも椎間のスペースが狭くて充分な術野が得られませんので、適宜ドリルで椎間終板を削ってスペースを拡げます。しかし、これは必要最小限にします。使用するケージがぎりぎり入るスペースを目標にするのが良いでしょう。

次に、後方の骨棘を削っていきます。まず、ダイアモンドのドリルでおおまかに骨棘を削ります。ドリルは、一定の深さを保って平行に動かすことが安全のために重要です。常に、ドリルのどこの面で、どこの骨を削っているのかを意識して下さい。

その後、ソノペットを使って、残った骨棘やOPLLを削っていきます。ソノペット操作の基本に忠実に、骨縁ギリギリにソノペットの先端を当てて削っていきます。骨棘を削るに連れて、肥厚した黄色靭帯が術野に膨隆してくるでしょう。

これらの操作は、すべて狭く深い術野で行わなければなりませんので、顕微鏡の角度が非常に重要になります。ほんのわずかの顕微鏡の角度の違いで、道具の先端部がみえるかどうかが決まります。つねに至適な顕微鏡角度をみつけるよう努力して下さい。

10.後縦靭帯の切除

ついで、後縦靭帯と硬膜の間を剥離し、マイクロメスで後縦靭帯を切ります。この手技には、No.76のマイクロメスが有用です。鎌形のマイクロメスですが、刃の先端に幅が会って鈍になっているので、硬膜損傷の危険を低くできます。

後縦靭帯が切れて、テンションがなくなれば、ケリソンパンチで靭帯を安全に切除できます。靭帯を切除すると、硬膜が術野に膨隆してきます。半透明の硬膜を透かして、向こうの脊髄の動きを多くの場合に観察できます。

11.椎間固定

椎間をケージで固定します。私達は、円柱形のケージを2個並べて使用しています。ケージにはいろいろな種類があるので、手技はケージの種類によってことなりますが、必要に応じて骨削除を追加し、ケージがぴったりと適合するよう微調整します。

ケージを真っ直ぐに入れるためには、顕微鏡の方向が斜めであることを意識する必要があります。顕微鏡の方向に挿入すると、ケージは斜めに挿入されてしまいます。

12.閉創

止血を丁寧に確認します。術後出血は、気道を圧迫して命に関わる重大な合併症の原因になりますので、止血は、神経質なくらいに確認して下さい。広頚筋を縫合し、皮膚を縫合して手術を終了します。