脊髄腫瘍
私の外科医としてのキャリアの中で、多くの脊髄腫瘍の手術を経験してきました。脊髄腫瘍は、脊椎の手術の中でも最も熟練を要する手技の一つですが、脳神経外科が最も得意とする領域の一つでもあります。
腹側の腫瘍の問題点
その中で、脊髄の腹側に位置する腫瘍は、特に手術が難しいものです。脊髄の腹側の腫瘍に対して、後方からアプローチすると、腫瘍は脊髄の向こう側にあって、そのままでは見ることができません。これを露出するには、脊髄を少し押しのけなければならず、この操作で脊髄を損傷する危険があります。
この脊髄の圧拝によるリスクをできるだけ少なくするためには、外側からの視野を得ることが必要です。しかし、通常の正中からのアプローチだと、皮膚や筋肉がじゃまになって、この、外側からの視野を得ることが困難になります。
後方傍正中アプローチ
そこで、私が考案して、名前を付けたのが、後方傍正中アプローチというものです。これは、普通、脊椎手術では、皮膚切開を縦に置くところを、横に皮膚を切開することに特徴があります。このように皮膚切開をおいて、その下の筋膜を横向きに切ることで、外側からの視野を確保することができます。
今までに25例ほどの脊髄病変に対して、このアプローチを使用してきました。いずれも、脊髄の腹側に病変があって、手術の難しいケースでしたが、このアプローチを用いることによって、非常に効果的に安全に手術を行うことができました。
現在、このアプローチに関する論文を執筆中で、近いうちに公表したいと思っています。皮膚を横向きに切るというのは、意外と思いつかない、コロンブスの卵的な発想ではないかと思っています。
後方傍正中アプローチの模式図
脊髄の腹側にある腫瘍(神経鞘腫)の術前術後MRI。後方傍正中アプローチで、脊髄を損傷することなく腫瘍が摘出されている。