脊髄腫瘍の手術というと、どのようなことをするのか、危険性は高いのか等、いろいろなことが心配になると思います。そのような方のために、この記事では、脊髄腫瘍の手術について、簡単に解説してみました。

概要

私は、20年以上、脊椎の手術を専門にしてやってきました。約2000件の手術を行い、脊髄腫瘍も200件以上経験しています。

その経験からいえば、脊髄腫瘍の手術は決してこわいものではなく、熟練した専門医が行えば、手術前より状態が悪くなることは極めてまれで、ほとんどの場合に症状が改善し、多くの場合にその改善は劇的です。

脊髄腫瘍の手術はどのようなもの?

脊髄は、直径15mm程度の束上の組織で、大事な神経がぎっしりとつまっています。そこにできた腫瘍を摘出するためには、とてもデリケートな操作が必要です。

そのためには、手術用の顕微鏡を使って拡大した状態で手術することが必須になります。

手術は全身麻酔で、通常患者さんは腹ばいの状態となり、背中の正中部を切開します。

脊髄の後ろ側にあるアーケード用の骨(椎弓)を切除して、腫瘍を露出します。

そのあとは、顕微鏡で術野を拡大しながら、摘出を行っていきます。超音波メスという道具で、腫瘍をまずくりぬいてから、細かい作業で残った腫瘍の皮の部分を脊髄から剥離し、腫瘍を摘出します。

あとは、筋肉と皮膚を閉じて、手術を終了します。ドレーンという管を、手術後しばらく創部に留置しておいて、溜まってくる血液を、手術後に外に出すようにします。

脊髄腫瘍の種類

手術のリスクは、脊髄腫瘍の種類によって、大きく異なります。脊髄腫瘍は、大きく分けて、髄内腫瘍と髄外腫瘍に分かれます。

髄内腫瘍
脊髄自体から発生する腫瘍。まれな疾患。悪性のことも多く、手術のリスクも高い。
髄外腫瘍
脊髄の外の組織から発生する腫瘍。頻度が高く、ほとんどの場合良性で、手術のリスクも低い。

髄内腫瘍には、星細胞腫、上衣腫、血管芽腫などがあり、脊髄自体から発生します。手術の際には、脊髄自体に切り込む形で腫瘍を摘出しますので、脊髄を損傷するリスクが高くなります。星細胞腫の場合は、悪性で、腫瘍をすべて摘出することができないこともあります。

髄外腫瘍は、脊髄の外から発生するもので、ほとんどが良性の腫瘍です。髄膜から発生する髄膜腫と、神経の膜から発生する神経鞘腫があります。いずれの腫瘍も、脊髄を外側から圧迫するので、手術の際に脊髄に切り込むことはなく、脊髄を損傷せずに腫瘍を摘出することができます。

この他、癌が脊椎に転移することもあります(転移性脊椎腫瘍)。この場合、もともとの癌が比較的よくコントロールされている場合は、手術によって圧迫を取り除くことになります。多くの場合は、腫瘍を摘出したあとに、脊椎の骨が欠損してしまいますので、これを安定させるために、固定の手術が必要になります。

手術の安全性

手術は、熟練した専門医が行えば、比較的安全に行うことができます。顕微鏡を使うことは必須であり、肉眼で手術をすることは避けるべきでしょう。内視鏡でも、安全な手術をすることは困難です。

手術の際には、多くの場合に、電気で脳を刺激して、その信号が脊髄を伝わり、足の筋肉で信号を測定するということをしながら、手術を行います。こうすることによって、万一何か問題がおきたときに、すぐにわかるようにするのです。手術後は集中治療室で一晩経過をみます。

このようなことがあるので、手術はできるだけ設備と経験のあるスタッフの整った病院で受けられることをお勧めします。

手術を決める際には、担当医と十分に話し合い、納得がいくまで質問をしてください。手術前に、お互いの信頼関係ができることが、手術の成功にはとても重要なことです。実際に、専門医を探したくても、どうしていいかわからない、という方のために、脊椎手術の専門医の探し方の記事を書きましたので、参照していただけると幸いです。一般に、顕微鏡手術に慣れている、脳神経外科の脊髄専門医に相談することをお勧めします。

私でよろしければ、相談に乗りますので、Contactの欄にあるメールアドレスに、メールをいただければ幸いです。