脊髄髄内腫瘍は、脊髄にできる腫瘍のなかでも、比較的まれなものです。代表的な腫瘍に、脊髄星細胞腫や、脊髄上衣腫があります。腫瘍は徐々に増大し、四肢の麻痺や感覚障害をきたします。MRI検査を行えば、診断自体は比較的容易です。しかし、脊髄の中にできる腫瘍なので、手術による摘出は、脊髄自体から腫瘍を剥離するという操作が必要なため、リスクが高く、脊髄手術のなかでも、もっともデリケートで難易度の高いものと言えます。
髄内腫瘍と髄外腫瘍
下の図に示すように、髄内腫瘍は脊髄の中に発生し、徐々に増大していきます。それに対して、髄外腫瘍は、脊髄の外から発生して、外側から脊髄を圧迫します。この違いは、手術の際に大きく影響します。髄外腫瘍は、脊髄の外にあります。また、脊髄と腫瘍との間には、軟膜やくも膜という膜があるので、丁寧な手術をすれば、この膜に沿って、腫瘍を脊髄から剥がすことができるので、脊髄を損傷することはまずありません。それに対して、髄内腫瘍は、摘出の際に、どうしても脊髄に切り込む必要がでてきますし、腫瘍と脊髄の間には膜がなく、剥離の際にも、脊髄を損傷する危険性は、髄外腫瘍よりずっと高くなります。
髄内腫瘍の種類
主な脊髄髄内腫瘍の種類として、下記のものがあります。
- 神経膠腫
- 血管芽腫
- 海綿状血管腫
1.神経膠腫
脊髄自体を構成する神経膠細胞という細胞から発生する腫瘍で、「星細胞腫」と「上衣腫」の2種類に分かれます。腫瘍の悪性度としては、星細胞腫の方が悪性度が高く、予後も不良な傾向にあります。
頸髄、胸髄いずれにも発生し、比較的ゆっくりと増大します。症状は、発生部位によって異なりますが、四肢のしびれ、筋力低下、歩行障害などの症状が、徐々に増悪する、というのが典型的な経過です。
専門の脳神経外科医が診察し、MRIの検査を行えば、診断は比較的容易といえますが、上記の、星細胞腫か、上衣腫かを、画像だけで見分けるのは困難です。この違いが、手術の方法にも、予後にも影響しますので、区別できるに越したことはないのですが、実際には、熟練した医師でも、100%鑑別することはできません。
手術は、後方からのアプローチで、椎弓切除を行って、硬膜を切開し、腫瘍を露出します。しかしながら、腫瘍は脊髄の内部にあるので、通常は、脊髄の外からは腫瘍は見えません。脊髄背面を正中の溝のところで切開し、脊髄内に入って腫瘍を確認することになります。
ここからの部分が、星細胞腫か、上衣腫かで、大きく異なってきます。上衣腫は、通常、脊髄と腫瘍の境界面がはっきりとしており、腫瘍だけを、脊髄から剥離して摘出していくことが可能です。しかしながら、星細胞腫は、通常は、腫瘍と脊髄との境界面がはっきりしていません。ですので、どこまでが安全な摘出範囲かを決めるのが難しくなります。腫瘍を完全に摘出しようとすると、脊髄を損傷するリスクが高くなるので、通常、星細胞腫の場合は、腫瘍の全摘出はできません。上衣腫の場合は、丁寧な手術を行えば、脊髄を損傷せずに、腫瘍を完全に摘出することも可能です。
脊髄髄内腫瘍の摘出には、顕微鏡手術の高い技術が要求されます。また、手術中に、脊髄の機能を電気的にモニターしながら手術を行うことも必須です。大学病院など、設備の整ったところで、経験豊富な脳神経外科医による手術を受けることが望ましいでしょう。
2.血管芽腫
血管芽腫は、良性の腫瘍で、小脳などに多く発生しますが、脊髄にもみられます。血管に富んだ腫瘍で、ゆっくりと大きくなります。腫瘍が分泌する液体が、腫瘍周辺に袋状の嚢胞を形成することもあります。脊髄のどこにでもできますので、腫瘍の場所によって症状は異なりますが、やはり、筋力低下、しびれ、歩行障害などが徐々に増悪するという病歴が特徴的です。
この腫瘍は良性腫瘍なので、脊髄との間の境界ははっきりとしており、手術で腫瘍を全摘出できれば、治癒することができます。しかしながら、脊髄の中にできる腫瘍ですので、手術で腫瘍を脊髄から剥離する際に、脊髄を損傷するリスクもあり、やはり手術の難易度は高いものがあります。 また、血管に富んだ腫瘍ですので、手術前の検査で、腫瘍に流入、流出する血管の位置を 正確に把握して、手術の計画をたてる必要があります。
3. 海綿状血管腫
海綿状血管腫は、壁の薄い結果にの集積したもので、全身どこにでもできるものですが、脊髄にできるのは比較的まれです。厳密にいうと腫瘍ではありませんので、増大していくことはありません。しかし、小さい出血を繰り返して、結果として増大したり縮小したりすることがあります。
出血を起こすまでは無症状のことが多く、出血による脊髄の圧迫で発症することがほとんどです。症状が軽い場合は、手術を行わずに経過を見ることが多いのですが、症状が重症な場合や、進行性の場合には、手術による摘出も検討されます。病気自体が稀であり、出血の確率も少ないことから、はっきりした治療のガイドラインはなく、症例個々に応じて、治療方針が立てられます。
はじめまして。脊髄腫瘍を検索していてこちらのサイトに辿り着きました。
私は今年7月に右後頭部の痛みで脳外科を受診し、MRIで脊髄腫瘍と診断されました。頭痛と手の痺れがあり、リリカを処方されて一旦症状は落ち着いたのですが12月に入ってまた右後頭部に鈍い痛みが出てきて、痺れも始めは左側が強かったのが今は右側も重だるい感じです。現在県内の大学病院にかかってますが、経過が短く、私が30代で子供がまだ小さいことや術後どのくらいまで回復するか分からないという理由から手術してと言われればするけど、こうしたリスクを考えると手術は第一選択ではないと言われ、薬でのコントロールをしています。ですが自分で色々調べてみて、今は薬を飲んで痛みを抑えていても今後良くなることはないし、このままの状態が続き、さらに悪化して日常生活にも支障が出てしまう可能性があることにとても不安を感じています。
MRIで髄外腫瘍と、脊髄の中にも白い影があり、こちらは何だかよく分からない、おそらく腫瘍が脊髄にも跨っているダンベル型腫瘍だろうと言われたのですか、この場合、手術での回復は難しいのでしょうか。
関東に住んでいますが、張先生の病院へ受診するには片道3時間かかるため、直接診ていただきたいのですが悩んでいます。このまま薬で様子を見てていいのか、手術で回復する希望があるのなら病院を変えたほうがいいのか、悩んでいます。先生のアドバイスをいただけたらと思います。よろしくお願いします。
コメントをありがとうございました。
個別のケースについては、実際に診察をし、画像を見てみなければ、責任をもったご返事はできません。ただ、一般的なことを言うと、ダンベル型腫瘍ということですと、神経鞘腫という良性腫瘍の可能性が高いかと思います。症状があり、手術を希望されるのであれば、手術は可能と思います。手術には一定のリスクが伴いますので、実際に手術するかどうかは、このリスクも考慮に入れて、また、今後の腫瘍の増大の可能性などを考慮して決める必要があります。さらに言えば、手術のリスクは、術者の技量、経験等によって大きく異なります。あまり経験がなく、自信がない術者であれば、手術をためらう、ということもあり得るかと思います。
今現在、症状がそれほどつらくなく、日常生活にそれほど支障がないのであれば、そんなに慌てて手術を考える必要はないかとは思います。ただ、いずれかの時点で手術が必要になる可能性は高いかもしれません。
以上、一般的なお話をしました。先にも申し上げたように、個別のケースについては、責任を持ったお答えはできかねます。
お返事ありがとうございます。
いずれ手術をするなら、張先生のように経験豊富で技量のある先生にしていただきたいと思っています。
来月またMRIを撮るので、その経過でなんと言われるか今から不安ですが、少し様子をみてみようと思います。
また疑問があれば相談させてください。
ありがとうございました。