腰椎椎間孔狭窄症は、診断が困難なことで知られています。私も、この病気の診断には、大変苦労をし、いろいろと試行錯誤を続けてきました。今回の記事では、何故この病気の診断が難しいのか、そして、私の現在の診断方法について解説したいと思います。
- 腰椎椎間孔狭窄症の症状
- 腰椎椎間孔狭窄症の画像診断
- Thin-slice MRI
- 神経根ブロック
症状
腰椎椎間孔狭窄症は、腰部脊柱管狭窄症の一種と考えることができますから、症状としては、腰部脊柱管狭窄症の症状とよく似ています。すなわち、腰痛、下肢のしびれや痛み、そして間欠性跛行(しばらく歩いていると上記症状が出現してあるけなくなってしまい、しばらく休むと症状が軽快してまたあるけるようになる症状)です。
しかし、椎間孔狭窄症に特徴的なことは、症状が片側に起きるという点と、しばしば、痛みが激痛と呼べるほど強いことです。症状が片側に起きるというのは、腰部脊柱管狭窄症では、中心部の神経の通り道が狭くなって両側へ行く神経が同時に圧迫されるのに対し、椎間孔狭窄症では、神経が脊柱管から出ていく椎間孔の部分で圧迫されるので、圧迫される神経は片側だけであり、また、その部位には、背側神経節という、神経の本体のある場所があり、その部分が直接圧迫されるために、激痛が生じるものと考えられます。
このように、おおまかな症状の違いはあるのですが、実際問題としては、症状だけで、神経の圧迫部位を特定することは困難です。神経学的検査(神経診察)を行うことで、圧迫されている神経をある程度特定することもできますが、この神経が、中心部の脊柱管であっぱくされているのか、椎間孔で圧迫されているのかまでを特定することはできません。
画像診断
従って、MRIやCTスキャンによる画像診断が重要になってくるのですが、この画像診断が難しいということが、以前から言われています。
なぜ、MRIによる画像診断が難しいのか、という点に関しては、私の考えでは、MRIの通常の撮影方法に問題があると思っています。
通常の腰椎MRI撮影では、水平断を撮影する際に、全体を連続して撮影するということをしません。検査時間を節約する、というのがその一つの理由ですが、通常、各椎間板のレベルで3枚程度の水平断を撮影する、という方法が一般的です。
しかし、この方法には重大な問題があって、多くの場合で、水平断が、椎間孔の部分から外れてしまう、という結果になるのです。これが、通常のMRI撮影で椎間孔狭窄症の診断を難しくする一つの要因です。
Thin-slice MRI
私は、10年以上前から、この問題を解決するために、1mmの厚さのMRI画像で連続切片の撮影を行い、それを、コンピューター処理で水平断、矢状断、前額断の3方向の画像を構成して、この画像を十分研究する、という方法を用いています。このようにすると、一本一本の神経を画像で追いかけていくことができ、どこに圧迫があるか、という点を、正確に同定することができます。この方法を用いれば、画像断面に病変が含まれない、ということはないので、病変を見逃す可能性も少なくなります。
神経根ブロック
現在では、この方法を用いることで、ほとんどの症例でMRIのみで診断を付けることができるようになりましたが、それでも、時に診断を迷うことがあります。そのような場合には、神経根ブロックを用いて診断を確定する、ということをやっています。この場合の神経根ブロックは、治療目的ではなく、純粋に診断の目的の検査です。レントゲンの透視を用いて、椎間孔のそばまで細い針を刺入し、一本の神経根だけを麻酔してみます。このブロック注射で、症状がかいぜんすれば、その神経根が症状の原因であると特定できるので、その部位を手術すれば症状が改善すると確信を持つことができます。
まとめ
椎間孔狭窄症は、診断が難しい疾患ですが、特殊なMRI撮影を用いることによって、熟練した医師が読影すれば、かなり正確に診断をすることができます。