Failed backとは、英語で、「失敗した腰」という意味で、腰椎の手術をした後に、症状がよくならなかったり、むしろ悪化したりした状態のことを指します。腰椎の手術は、100%成功するというわけではありませんから、一定の確率で、そのような結果となるのは、ある意味仕方がないことかもしれません。幸いなことに、わたくしのところの手術で、Failed backというような状態になることは、きわめて稀で済んでいます。

Failed backの起きる原因には、いろいろなことが考えられますが、その中で大きな割合を占めるのが、やはり隣接椎間病変です。隣接椎間病変とは、私の他の記事を読んでいただければ解ると思いますが、腰椎固定術を行ったあとで、固定をした隣の椎間に負担がかかるため、そこの関節の変性が加速される現象のことで、平たく言えば、固定をした隣の関節が悪化するということです。

隣接椎間の病変にもいろいろのパターンがありますが、椎間孔が狭窄して、その部分で神経が圧迫される、椎間孔狭窄症を呈する場合が多いようです。この場合、症状としては、腰痛や、強い下肢痛、下肢のしびれ、間欠性跛行などの症状を呈し、多くの場合、片側の下肢に強い痛みが起きます。
問題は、その場合に、診断がまず困難になることです。固定手術の金属が入っているため、MRIの撮影はできるものの、画質が悪くなります。椎間孔狭窄の診断に慣れていなければ、普通でも診断が難しいところが、特に困難になるわけです。我々のところでは、特別なMRIの撮影法を用いていますので、ほとんどの場合に診断可能だと考えていますが、いままでに出会った患者さんの中には、痛みが強いにもかかわらず、診断されずに放置されていた方が、多くいらっしゃいました。

治療には、やはり手術が必要で、自然に症状が軽快することは、あまり期待できません。この場合の手術ですが、整形外科では、固定の延長ということがよくやられるようです。変性した隣接椎間を、固定に含めてしまうとういわけです。もちろん、これもある意味理屈にあった方法ではありますが、さらに隣の椎間が変性してくる可能性を止めることはできません。私のように、固定をしない主義のものからすると、あまりうなずける治療法ではありません。

私自身は、隣接椎間病変の椎間孔狭窄症に関しても、顕微鏡を使った除圧術を行っています。なんにせよ、とても侵襲の少ない手術ですし、多くの場合に症状は劇的に改善します。ただし、長期的な予後に関しては、やはり問題が残ります。固定された椎間を、もとの動きのある状態に戻すことはできませんので、隣接椎間に対する負担は、除圧術後も同様に残ります。ですので、この椎間の変性が更に進む可能性は、常に残っているのです。それでも、どちらの方法が良いのかを選ぶとしたら、やはり私は、除圧術をおすすめします。少なくとも短期的にはとても良好な成績ですし、仮に変性が進んで症状が再発したとしても、多くの場合に、再度除圧術を追加することが可能だからです。

腰椎固定術後に、症状が良くならなかったり、しばらくして症状が悪化してきたり、という方がいらっしゃったら、ぜひ、隣接椎間の病変、特に椎間孔狭窄がないかどうかを、考えて見てください。最後に、典型的な症例の術前術後の腰椎CTの写真を供覧します。固定術の隣接椎間で椎間孔狭窄が起きた症例で、右側が、顕微鏡的除圧術を行った後のCTスキャンの写真です。青の矢印でしました部分が、顕微鏡的除圧術で骨を削った部分です。5mm程度の幅で、小指の先くらいの大きさの骨が削られているのが解ると思います。