超音波骨メスという器械のことを聞いたことがおありでしょうか?この道具は、私の脊椎手術には欠かすことのできない道具で、20年以上前から愛用しています。本稿では、この道具について簡単に説明してみたいと思います。
超音波骨メスとは
超音波骨メスとは、耳かきの少し大きいもののような形をした金属の道具で、先端が超音波で振動することで、骨を破砕することができる道具です。従来、骨の削除にはドリルが最もよく使用されます。しかし、超音波骨メスには、ドリルでは得ることのできない大きな利点があります。
この器械は、日本のエムアンドエム社で開発されたもので(現在は、製造販売が米国のStryker社に移っていますが)、日本が世界に誇れる発明品ではないかと私は常々思っています。
超音波骨メスの利点と欠点
超音波骨メスの利点は、なんと行ってもその安全性にあります。ドリルというのは、高速で回転する金属で、骨を削っていくものです。当然、高速で回転するものが、神経や血管などの重要な組織に万一触れるようなことがあれば、それらを巻き込んでしまって、重大な損傷を与えてしまいます。したがって、神経などの軟部組織に接した部分の骨を削る際には、細心の注意を払う必要があります。また、綿片などで軟部組織を保護しながら骨をドリルで削ることはできません。やはりドリルが綿片を巻き込んでしまって、保護している軟部組織を損傷する可能性があるからです。
その点、超音波骨メスはとても安全です。先端が振動しますが、ドリルのように回転しているわけではないので、組織を巻き込むようなことはありません。ですので、神経に接している骨も、安全に削っていくことができます。
超音波骨メスの欠点としては、大量の骨を短時間で削ることが難しいことです。繊細な操作が可能な反面、おおざっぱな骨削除にはあまり向いていません。しかし、操作に慣れてくれば、超音波骨メスでも、かなりのスピードで骨を削っていくことができます。
顕微鏡手術での使用
私は、脊椎の顕微鏡手術で、超音波骨メスを多用しています。すべての症例で使用しているといえるでしょう。脊椎の手術は、万一の場合、神経が損傷されて手足の麻痺が起きたりするリスクがあります。ですので、手術は、安全が何よりも優先されます。超音波骨メスと顕微鏡を使った手術は、この点、非常に安全性が高いといえます。顕微鏡で神経などの重要な組織をしっかりと見ながら、超音波骨メスを使って安全確実に骨を削っていけば、神経の損傷が起きることは、まずありません。
腰椎の除圧術、頚椎の前方、後方アプローチ、脊髄腫瘍の手術、いずれの場合にも、正確で安全な骨削除は必須の操作です。超音波骨メスは、安全な脊椎手術を行うのに、なくてはならない器械です。