- 脳神経外科?脳外科?神経外科?
- 欧米の脳神経外科での脊椎手術の歴史と現状
- 日本での「脳神経外科」の誕生
- 脳神経外科での脊椎手術
脳神経外科?脳外科?神経外科?
我々の専門科は、脳神経外科ですが、一般には、「脳外科」と呼ばれることが圧倒的に多いと思います。そのためか、脳神経外科の主要な部門の一つが脊椎手術である、という点が一般に認識されていません。
しかし、脳神経外科は、英語では、Neurosurgeryです。Neuroは、神経という意味で、surgeryが外科という意味ですから、これは、文字通り訳せば、「神経外科」ということになります。すなわち、神経(中枢神経である脳と脊髄、および末梢神経)に関する外科手術は、すべて、脳神経外科の守備範囲ということになります。
日本だけが、なぜか、ガラパゴス的に進化して、脳神経外科は脳しか扱わないような認識になってしまっているようですが、これには、いくつかの歴史的経緯があるようです。
欧米の脳神経外科での脊椎手術の歴史と現状
実際、脳神経外科の歴史を振り返っても、1887年に世界で初めて脊髄腫瘍の摘出術を成功させたのは、Victor Horsleyという英国の脳神経外科医ですし、1908年に、世界で初めての椎間板ヘルニアの摘出を行ったドイツのKrauseも、脳神経外科医です。
現在でも、欧米の脳神経外科に行けば、手術の半分以上が脊椎関係の手術で占められています。
日本での「脳神経外科」の誕生
日本で、「脳外科」という言葉が初めて使われたのは、1954年とされていますが、面白いことに、日本国語大辞典には、「脳神経外科」という言葉も「神経外科」という言葉もありません。日本では、初めから「脳外科」という言葉が一般に流布しており、脳神経外科医は、脳を専門に扱う医師、すなわち brain surgeonであるという認識があったようです。
日本で初めて脳神経外科の学会が開かれたのが1948年のことで、この際に、「脳・神経外科研究会」という言葉が使われています。この言葉には、脊髄と末梢神経も含ませるという意図があったと思われますが、1965年に正式の診療科名になる際に、「・」が取れて、「脳神経外科」という言葉が誕生します。
脳神経外科での脊椎外科
その後、多くの先輩諸先生の努力もあり、日本でも、世界標準に近づけて、脳神経外科での脊椎手術が盛んにおこなわれるようになり、多くの脳神経外科が脊椎手術を専門に手掛けるようになっています。
脳神経外科での脊椎手術は、我々の得意な技術である、手術用顕微鏡を用いた、繊細な手術テクニックを特徴としています。この技術は、より安全、確実で低侵襲な手術を可能にすることはもちろんですが、病気の診断や治療戦略の立て方など、治療の考え方にも大きな影響を及ぼします。つまり、原因となる病変を正確に同定して、ピンポイントに低侵襲な手術を行う、という考え方に行きつくことになります。
結論
以上、脳神経外科と脊椎手術の歴史を簡単に振り返ってみました。脳神経外科で脊椎手術を行うのは当然のことだということがお判りいただけたかと思います。尚、この記事の内容の詳細にご興味がおありの方は、私が以前に書いた拙文をお読みいただければ幸いです(脳・神経外科)。