上衣腫というのは、あまり聞きなれない病名かもしれませんが、脊髄そのものから発生する、「髄内腫瘍」と呼ばれる腫瘍の一種です。この記事では、上衣腫について解説します。

  • 上衣腫は、髄内腫瘍の中でも、全摘出が可能で、比較的良性の部類に入る。
  • 手術はリスクを伴い、一時的に手術後症状が悪化する可能性が高いが、多くはその後回復する。
  • 熟練した外科医に、設備の整った施設で手術を受ければ、良い希望が持てる。

1. 上衣腫とは

上衣腫とは、脊髄そのものから発生する腫瘍で、脊髄内で徐々に大きくなる、「髄内腫瘍」と呼ばれる種類の腫瘍である。「髄内腫瘍」には、他に、制細胞腫と呼ばれる腫瘍があるが、上衣腫の方がより良性で治療しやすいといえる。

2.上衣腫の症状と診断

一般に、症状は、手のしびれや、手の細かい動作の障害、歩行のしづらさなどであり、これらの症状が、数か月の単位で徐々に進行することが多い。

診断は、専門医の診察に加えて、脊椎のMRIを撮れば、比較的容易である。しかし、上に述べた、星細胞腫との区別は、MRIだけでは難しく、最終的には、手術で摘出した標本を、顕微鏡で調べることで、診断が確定する。

3.手術

上位腫術前MRI
上位腫術後MRI

手術は、腫瘍を身長に脊髄からはがしていく必要があり、かなりの技術を要します。幸い、多くの上衣腫は、脊髄との間の境界がはっきりわかるので、丁寧にはがしていけば、脊髄をいためることなく、腫瘍を全摘出することができます。

手術には、手術用の顕微鏡、電気刺激による脊髄機能の確認、超音波メス、バイポーラ摂子などの設備が必要であり、手術中に標本を病理学的に調べる体制もなければなりません。

また、手術後の集中治療室での管理や、リハビリテーションも必要です。

それなりの設備とスタッフの整った、大学病院クラスの病院でなければできないでしょう。

4.手術成績

熟練した外科医が行えば、手術の成績は比較的良好です。上衣腫であれば、約80%の症例で、全摘出が可能です。一方で、星細胞腫の場合は、境界が不明瞭なため、全摘出ができないことが多いでしょう。

手術の際には、どうしても脊髄を少しひっぱったりせざるを得ないため、術後、一時的に症状が悪化することが多いでしょう。具体的には、両足の感覚障害が悪くなることがあります。しかし、多くの場合には、時間とともに症状は改善していき、さいしゅうてきには、多くの症例で、手術前より良い状態まで回復します。

全摘出できた場合は、放射線治療の追加を行うことはなく、定期的にMRIを撮りながら、外来での通院を続ける必要があります。

術後5年での生存率は、約80%です。

手術で摘出した標本を調べると、腫瘍がどのくらいのスピードで大きくなっていたかを示す、KI-67(あるいはMIB-I)という数値を知ることができ、この数値が、再発のしやすさを考えるうえでの参考になります。

5.まとめ

上衣腫は、脊髄の髄内腫瘍のなかで、比較的、良性の腫瘍です。手術で全摘出できれば、良い経過を期待できます。信頼できる医師の手術を受けることが重要です。